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不安が創り出す闇と壁
教え子の1人が私を訪ねてアメリカからやってきました

彼女のことは以前に日記でも書いた気がするんだけ
ど、昔サーカスキャンプという夏限定のサーカス
スクールの指導をしていた時に受け持った生徒で
今は夢が叶ってアメリカのサーカスに出演している女
の子(女の子って言うのも失礼な年齢なので女の人)

ちょうどサーカスの出し物がクリスマスものに変り
忙しくなる事から、その前にサンクスギビングまで
長期休暇をもらえたからと本人は言っているが

通常ならサーカスパフォーマーってのは代わりのき
かない契約社員、怪我でもしない限りは代役を使わ
ない世界なので長期休暇なんてめったにもらえない

しかも、そんな貴重な長期休暇を使って私に会いに
来るなんて

これは何かあったなとすぐに気づいたのですが
そう思いながらも普通に接し、私は彼女が自らそれ
を口にするのを待つことにした

でも、ラムにとってはそんなこと解るはずもなく
目の前に憧れのサーカスの第一線で活躍している人
がいるとあって、いつになくハイテンションで
舞い上がっちゃってます

目を輝かせながら

「サーカスってどんな部屋で寝泊まりするの?」

「サーカスのお化粧って誰がしてくれるの?」

「お姉ちゃんはサーカスに出るのが夢だったの?」

「お姉ちゃんは何歳からサーカスの練習始めた?」

などの質問攻め

ラムの気持ちは分からないでもないけど
これだと余計に彼女が言い出しづらい

そこで、申し訳ないがラムには少し席を外して
もらい

私の勉強も兼ねて、現在彼女が行なっている
ストレッチを見せてもらうことにした

雑談しながら2人で久しぶりにストレッチを
していると、やはりこのタイミングを待っていた
ようで、話は当時の思い出話からしだいに彼女の
抱える不安についてへと移っていった

彼女の抱えていた不安とは

今のサーカスに同じスキルを持つ女性パフォーマー
がもう1人いて、しかもその彼女は全ての技に
おいて自分より技術のレベルが高く、それは誰が見
ても明らかにわかるぐらいの差

彼女はウェブで検索しそのパフォーマーの動画を
見せてくれたのだが、確かに基礎もバリエーション
も奥行きも持っている

話を彼女の抱える問題の話に戻すと

そういう状況でも団長が今シーズンのメインに選ん
だのは彼女の方

それが決まった当初はサーカスの他の仲間たちからも
祝福され本人もその事をすごく喜び感謝していたのだが
その置かれた状況がしだいに
彼女の心にプレッシャーとコンプレックスを生み
仲間からの視線や比較される事が怖くなりはじめ
疑心暗鬼から仲間とはギクシャクした関係になり
失敗を恐れるあまり本来の力も発揮できない
といった環境をつくりだしていった
そんな時に限って悪いことは続くもので
そんな最中、ショー中にミスを連発してしまい
つい絶えきれなくなったあまり自らステージを降りて
しまったようだ

その人間関係のイザコザはさておき、それは
サーカスでは絶対にやってはいけない事で
首がつながっているのが不思議なぐらい

全ての問題は彼女の心の弱さにあるな、、、
そう思いながらも、さらに続く彼女の話に耳を傾ると

そうなる前に、彼女なりに現状を変えようと
新しい技を入れる事を考えてみたのですが、今の演目
で彼女の持つ技の全てを出し切ってしまっていたため
出せるものは何もなく
だからといって、新しい技の練習に取り組もうにも
日々のショーがあり、怪我するわけにもいかないため
に50%程度(現状維持程度)の練習しかできなく
難易度の高い技なんて、そんな簡単に身につける
なんてことはできる訳がない
そんな何も出来ない状況が、彼女の心の中に更なる
不安と焦りを積もらせていった

それでも、ショーが始まると笑顔でステージに立って
いたのだが

失敗を連発してしまったことで、彼女の抑えきれる
限界点を超えてしまいショーで平常心を保てない
ようになり、その場から逃げ出したい一心で
気がついたときには自らステージを降りてしまって
いたようだ

後で自分のしでかしてしまった事の大きさに気が付き
メインを降りたいと団長に打ち明けたが認めてもらえず
それで与えられた長期休暇でした

そんな状況のまま帰郷しても家族に会わす顔もなく
行き場を失った時に、昔の事が懐かしく感じそれで私の
所を訪ねて来たというわけだ

頼って来てくれたのは嬉しいが

今回ばかりは難しい

どうしたものやら、、、、救ってやれるかな、、、

これは、昔に私もぶつかったことのある壁であり
ラムもいずれぶつかる壁
私がその壁にぶつかったのはもうかなり昔の事なので
はっきりは覚えていないが、なんとなくその時の辛かった
気持ちが今も記憶に残っている

こんな私ですら今も記憶に残っているぐらいの
辛さなのだから、その最中にいる彼女の辛さは相当な
ものだろう

こんな時って経験者や第三者は冷静に状況が見えるから
色々とごもっともな事を言えるのだけど、言われてる方に
とっては初めてこの壁にぶつかった事で動揺してしまい
心が追い込まれ視界も狭くなっているから問題点なんか
まず見えない
それどころか、周りからの声を理解しながら素直に聞き入
れ心に受け止めるなんて事は、一度頭を冷やしてからで
ないと何を言われても心にまで届きはしない

うまく言葉に表現できないけど
まさに悪循環の連鎖と病みの闇といった感じ

生徒なので、なんとかしてあげたいのは山々だが

この壁は来るべくして来る試練の壁でもあって

変に甘やかして助けちゃうと、ここで成長を止めて
しまったり、この先にあるモノが見えなくなり更に
彼女を辛い所に追いやってしまうなんてことも考え
られる

本当に今回ばかりは難しい どうしたものやら

それはそうと、少しばかし話はそれますが
この壁!!

なぜか、必ずと言って良いほどサーカス
パフォーマーの前に立ちはだかる不思議な壁
なんです

彼女のように早くしてその地位を手にしたヤツは
当然ながら経験も少なく、持った引き出しが少ない
ことにぶつかります
そんな時にこの壁が前に立ちはだかったり

他に類のない優れた技術を持っているヤツなんかは
しばらくの間はライバルもなくチヤホヤされるが
所詮は人の為す技であるが為に、いずれ同じ技術を
持ったヤツが現れ追い越されたりします
そんな時にこの壁が前に立ちはだかったり

ハッタリと運だけでのし上がってきたヤツなんかは
実力のなさと、いつそのハッタリが剥がれるか
わからない不安に怯えてます
そんな時にこの壁が前に立ちはだかったり

他にもいろいろなケースがあるのですが
どんな道を通ってきてもサーカスパフォーマーを
目指していると不思議と決まって
一度はこの壁に行き着いちゃうんですよ

しかも、嫌な事に次の壁とも連鎖してるというか

この壁を早く乗り越えれる人、いわゆる心の太い
ヤツは繊細さに欠ける人が多く、たいていは次の壁
でもある、センスや観客からの目線が問われる
問題にぶつかった時に、観客の気持ちが解らない
などといった事でつまずきます

一斉検問のような二枚壁ですね

私もはじめは自分だけの事かと思っていたのですが
サーカス学校や色んな場で指導するようになり
自分以外の他のパフォーマーや生徒の道が見れる
ようになって相談を受けるうちに、これらは不思議と
皆が必ずと言って良いほどぶつかる壁であることが
わかったんです

きっと、これらの壁を自分自身で乗り越えたことで
得れる心の強さとその自信、そして悩んで試行錯誤
した時間がこの先サーカスの世界で生きていくのに
絶対必要であるがゆえに必ず訪れる試練なのだろう
と私は思ってます

ポッと出て消えていくパフォーマーは抜きにして
サーカスの第一線で生き残っていくパフォーマーは
皆どこかでこれを乗り越えてきてる
それを避けて第一線で生き残れてるヤツは少なくとも
私はまだ出会った事がないですね
きっとそれは、乗り越えれた者しかこの世界で生き残っ
ていけないからなのではないかと思います

まさに教え子がそんな状況なのに、そんなこと
言ってちゃいけないか

まぁ、この子の場合は天性の気品とルックスがあって
そこにパフォーマンスがついてきてるって感じだから
団長も手放したくないのは解らないでもない
それにポスターなどでセンターに載ってるパフォーマー
が居なくなるのはサーカスにとって都合が悪いことも
あっての長期休暇なんだと思います
もちろん、団長の懐の深さもあっての事なのですが

さてどうしましょう

教え子の窮地に何をしてあげれるのか、、、

いろいろ考えた結果、直接この問題に触れて
アドバイスしたところで、今は心から受け入れて
もらえなさそうなので

一旦、話題を変えて

“なぜ私がパフォーマンスでマスクを使うことになったのか!?”

興味をそこにそらして話すことにしました

これはラムが今抱えてる問題でもあるから、少しここ
にも書いとくことにしましょう

私のスタートとなったパフォーマンスはムチで
しかも、そのチャンスを与えてくれたのはアメリカ

アメリカ人やオーストラリア人にとってムチを扱う
日本人は、日本人の目から見るサムライを真似る
外国人のように違和感があるように映るらしく
そのままの姿でムチのパフォーマンスをしても
受け入れてもらえないと言われたからなんです

しかも海外ではアジアはどこも一緒くたに見られて
日本も中国も韓国もごちゃまぜ それゆえ困ったことに
そのままの姿でパフォーマンスをすると
アジア=雑伎団 と見られハードルが高くなっちゃうの
です

今でこそ、それでもガチの勝負を挑んで勝ち上がっていく
日本人パフォーマーが沢山でてきましたが
当時はそんな人はいなくて、私にそれが出来るだけの
ズバ抜けた実力もなく、そこでの勝負を避けるために
考え抜いたあげくに私が手にしたのがマスクでした

マスクって、無表情だけど存在感があり
アジアやヨーロッパなどといった枠を感じさせず
人か人形かなどの枠組みすら考えさせない
全てにおいて中性的なイメージを持っていますよね
そんなマスクの特性を利用し、マスクの生み出す
神秘的な世界を、さらにパフォーマンスで広げることで
ムチ使いとしての自分の居場所を作ろうと考えました

それが功を奏して、私のムチのパフォーマンスは
海外の人にも人種の偏見なく受け入れてもらえる
ようになり、海外での活動を続けることが出来る
ようになりました

でもすぐに同じスタイルのパフォーマーが現れ
マスクをつけることで誰でも簡単に似た空気観を
表現出来てしまうといった壁にぶつかりました
(しかもヨーロッパの人の方がマスクをつけると
スタイルが良い事から見た目も良い)

そこで、マスクをつけていても個性とオリジナリティーを
更に引き出す事を目標に、今まで以上に技と見せ方に
重点を置いたキャラクターづくりに取り組みました
それがマスクのパフォーマーディオの始まりなんです

(実際はもっと色んな当時のことなどを交えて話した
のですが、すべて書くと長くなるので要約しました)

こんな感じで、私の経験談から

彼女の生まれ持った特技であり武器である
その人にしかできないカラーと空気観の話を彼女に
しました

そして、もう一つ
彼女が目の前の壁を乗り越える為の鍵として

お客さんの心に残るショーとは自分の中ではなく
お客さんの心の中にあるもの
そこに残るモノは決して技の難しさではなく
そこにある空気観であり印象である

ということをアドバイスして空港まで見送りました

これらの話が彼女を救ってあげれるのか
なぐさめにしかならないのかは解りませんが

このまま逃げると言う選択肢だけは選んで欲しく
ないですね

きっと壁を乗り越えてくれると信じてます

頑張れ!!

今回の日記はサーカスパフォーマーを目指し頑張って
いる後輩にも役立ってくれると良いな

長い日記に最後までお付き合い下さり
ありがとうございました

お休みなさい
by kinosuke_otowa | 2011-11-18 12:45 | Switzerland
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